初代機構長就任のご挨拶

機構長 村山斉  平成19年10月1日

文部科学省の世界トップレベル国際研究拠点として、数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe 略称IPMU)が発足いたしました。この拠点は、従来の分野の壁を越えた新しい研究組織によって、宇宙の謎の解明に挑み、本学の基礎科学をより強力に推進することを目指しています。

世界トップレベル国際研究拠点プログラムは日本に基礎科学研究の「目に見える世界拠点」を作ることを目指して公募され、全国の大学、研究所の応募の中から5件が選ばれました。外国人4割を含む審査委員会は、本拠点構想について「世界的に超一流の研究者が集結し、(中略)『目に見える拠点』の構築が実現できる可能性が高い。若さに溢れ、ダイナミックな本拠点構想は、日本の伝統的な研究体制の殻を破るものとして期待されるとともに、特に、海外における経験の豊富な拠点長候補者は、若くてエネルギッシュであり、革新的な研究拠点のリーダーとしての活躍が期待される。」と判定、また、拠点を獲得した東大については「東京大学およびその長である総長からの強力かつ積極的な支援が期待できる。」とコメントしています。大胆な拠点構想と東大本部の強いバックアップが採択の決め手になったと思います。

数物連携宇宙研究機構(IPMU)は宇宙の最も根本的な謎の解明に挑みます。宇宙は何で出来ているのか、どうやって始まり、その運命は何か、どんな法則で動いていて、我々はどうして存在するのか。人類が何千年間も不思議に思って来た謎に、最先端の科学の力で迫る、これがこの機構の目標です。例えば、宇宙の構成について、過去十年ほどの間に驚くべき事実が明らかになっています。宇宙を満たしている物質やエネルギーのほとんどは、我々が知っている物質つまり原子ではなく、暗黒物質や暗黒エネルギーと呼ばれる未知の存在で占められているのです。この光を発しない暗黒な存在の正体について、我々は全くわかっていないのです。こうした深い謎に迫っていくには新しいデータ、その解析のための新しい統計学、解析結果を理解するための新しい物理法則、そしてその記述のための新しい数学が必要になります。

宇宙とそれが従う自然法則の理解のためには数学の力が必要なのは古くから認識されていました。ガリレオは「宇宙という壮大な書物は数学の言葉で書かれていて、数学抜きではその一言も理解できない」といっています。一方で、数学そのものの進歩も物理学に触発されて来ました。例えば微積分はニュートンが落ちるリンゴの運動を記述するために編み出した数学です。数学分野におけるノーベル賞であるフィールズ賞において、最近の受賞テーマの多くは素粒子物理学の必要性に促された研究テーマです。数学と物理学は互いに相手を触発しつつ進歩して来たのです。IPMUにおいても、数学と物理の枠を超えた新しい学問作りを目指して、世界をリードしていくつもりです。